第29回卒業式・第11回専攻科修了式

式辞  徳山工業高等専門学校長 天野 徹

 本日、ここに、河村周南市長をはじめご来賓の方々並びに多数の保護者の方々をお迎えして、徳山工業高等専門学校第29回卒業式及び第11回専攻科修了式を挙行できますことは、本校教職員並びに在校生一同の大きな喜びであり、ご臨席のみなさま方に対し、心からお礼を申し上げます。
ただいまご覧いただきましたように、それぞれの課程を修めた卒業生、専攻科修了生、合わせて145名の若者が、本日、この学舎から、新しい道を求めて、巣立っていくことになりました。彼らの新しい門出を迎え、これまで彼らを支え、励まし続けて頂いた保護者の方々、関係者の方々のお力添えに対し、本校を代表して、改めてここに、感謝の意を表させて頂きたいと存じます。
 卒業生の中には、マレーシア、カンボジア、ベトナム、そして、ラオスからの、5人の留学生がいます。母国に思いを馳せながら、徳山高専において勉学に励んだ、その向学心と努力に対して、お国の国旗を日の丸とともに掲げることにより、敬意を表したいと思います。同時に、彼らを暖かく育んでくださった地元周南地域のみなさま方に、彼らとともに、感謝の思いをお伝えいたしたいと思います。

卒業生、修了生のみなさん。おめでとうございます。
 今、みなさんは、ここ徳山高専で過ごした日々のことを、それぞれに感慨深く思い出しておられることと思います。私自身も、たった今、みなさん一人一人に、卒業あるいは修了の証書をお渡ししながら、胸の中をよぎるものの多さとその熱さに、とまどうような思いでした。また、みなさんの中には、新しい道に挑もうとする者の常である、かすかな不安を感じている方がいらっしゃるかも知れません。旅立ちにあたって、そのような不安を抱くことは、誰しもあることです。
 しかし、一つはっきり言える事があります。それは、今、みなさんの胸の内に去来しているであろう、この数年間の徳山高専での生活。その中で、伝え、伝えられたこと、共に作ったこと、競ったこと、そういった諸々の活動を通じてみなさんが培ってきた力は、みなさん自身が感じている以上に強く、大きいものであるということです。その力をもってすれば、遅かれ早かれ、新しい道を、自信をもって歩いていけるようになるはずです。私は、いえ、私だけではありません、今日ここにお集まりの方々は皆、みなさんがそういう力を身につけたことを感じ、確信し、そして誇らしく思っているのです。

そのようなみなさんに、いまさら、この場で、多くを付け加える必要があるとは思えません。したがって、これからのみなさんの将来への期待をこめて、一つだけ、お話したいと思います。それは、「ワーク」の姿勢を忘れないで欲しいということです。

 「チームワーク」という言葉があります。実習や部活など、学校生活の様々な場面で耳にし、皆さん自身も口にしたことのある言葉でしょうから、今さら説明するまでもないと思います。これからも、仕事をする中で、また、普段の生活においても、その重要性を実感する場面に、何度も遭遇することでしょう。物事を成し遂げる上で、チームワークが大きな力を発揮するということに、異論を差し挟む余地はありません。
 しかし、忘れてはいけないことがあります。チームワークは不可欠ではありますが、それが力を発揮するには、メンバーそれぞれが自らの役割を、自らの責任で、果たすことが大前提であるということです。いかに意思疎通がうまくいき、連携プレイに優れたチームであっても、自分の目の前に飛んできたボールを受け止めてさばく人は、自分しかいません。避けることはできませんし、他の人に代わってもらうこともできません。なぜなら、いつかあなたの所に飛んで来るボール、それを処理する、その時のために、あなたはそこに居るということだからです。
 実社会の中でも、そのような時や場面が必ずあります。自分にしか対処できない課題に直面する時、言い換えれば、自分はこの日のためにここに居たのだと実感させられる時が、必ずあります。そういう時には、今まで積み重ねてきた知識、経験のすべてを出し切って、事に当たらなければなりませんが、その時に大切なことが一つあります。
 それは、「自分は、その飛んできたボールを一番上手に処理することのできる世界でただ一人の人間だ」という自信を持つことです。少なくとも、今、この場面で、この課題に対処できるのは、自分をおいて他にいない。そういう確信を持たなければなりません。そのような自信と確信を持って、迷いや恐れを克服することができた時、初めて、色んなことが見えてくるのです。それは、仲間の声援の暖かさであったり、関係する人たちの思いの深さであったり、或いは、解決に向かう道筋かも知れません。いずれにしろ、問題に対して果敢に取り組む力を与えてくれるものであることには、間違いありません。
 では、そのような自信、確信は、どうしたら持つことができるのでしょうか。
私は、それは、日頃の「ワーク」だと思っています。ワークというのは、仕事という意味ですが、同じ仕事と訳される「レイバー」とは、本質的な違いがあります。辞書を調べて頂けば分かりますが、「ワーク」には、ある目的をもって行うという注が付いています。つまり、自ら目標を立てて実行すること、努力することなのです。そして、その結果を見て、再び目標を立て直す。この繰り返しを通じて自分を磨くことが「ワーク」であり、機械的な仕事である「レイバー」との違いなのです。日常の仕事を「ワーク」として捉えて、自分を磨いているかどうかが、いざという時に、自信を持って事に当たることができるかどうかを左右するのだと思います。
 みなさんは、遅かれ早かれ、何らかの組織に属して仕事をすることになります。組織の中でどのような立場に居ようとも、常に「ワーク」の姿勢を忘れてはいけません。チームワークという言葉はあっても、チームレイバーという言葉はありません。一人一人が「ワーク」の姿勢を持っていないところには、チームワークも成り立たないということなのだと思います。

 繰り返します。その日、その場で、その事に当たることができるのは、自分しかいない。そんな宿命的とも言えるような場面が、いつか必ずやってきます。そんな時に、自信をもって自分の力を発揮できるように、日頃の仕事の中で、技を磨き、心を鍛え、人とのつながりを深めていって下さい。みなさんは、今、自らに与えられている使命を果たすべく、その第一歩を踏み出そうとしているのです。

 さて、みなさん。今年の夏から、校舎の改修が始まります。まずは、南側の建物から工事が始まりますから、来年の今頃には、正門から見た学校の風景は、新しいものになっていることでしょう。2、3年後には、専門棟も含め、装いも新たな校舎が完成するものと思います。
 しかし、校舎が変わり、また、その住人が変わっても、みなさんがここ徳山高専に残した足跡が、消えることはありません。そしてここで知り合った仲間達は、みなさんの思いの内にある限り、いつも共にあって、みなさんの将来を、期待を込めて、見つめ続けているのです。ここで学んだことに、自信と誇りを持って、それぞれの道を力強く歩んでいってください。

 みなさんの多くは、私が初めて迎えた新入生でした。そして、みなさんは、私にとって、最後の卒業生、修了生でもあります。みなさんと過ごした5年間は、教育の現場という初めてのグラウンドに立ち、必死でボールを追い続ける毎日でしたが、みなさんのおかげで、私の人生の中で最もすばらしい5年間になりました。みなさんにお会いできたこと、そしてみなさんの門出に栄誉ある役割を果たすことができたことに、心から感謝して、式辞といたします。

                            平成19年3月13日
                      徳山工業高等専門学校長  天野 徹